ChatGPTにパスキーは設定できる。 ウェブ版にログインしたら、Settings→Security→Passkeys→Add passkeyの順に進めば登録画面に着く。

指紋や顔認証、端末のPINでログインできるようになる。 パスワードを打つ手間がなくなるのは素直にありがたい。

困るのは、仕事の相談や企画の下書きを何か月分もChatGPTに溜めている人だ。 その人が鍵をスマホ1台にだけ作り、そのスマホを駅で落としたらどうなるか?

同期していないパスキーは端末の中にしか存在しない。 端末へのアクセスを失えば、その鍵は使えなくなるおそれがある。

会話履歴の詰まった部屋の鍵が、落としたスマホと一緒に消える。

想像しただけで背筋が冷える。

押す場所は4段で終わる

ChatGPTの設定画面からパスキーを追加する手順と、別の認証方法へ戻る経路を示す図解

手順そのものは拍子抜けするほど短い。 ウェブ版の設定からセキュリティの項目を開き、パスキーの欄で追加を選ぶ。 あとは端末の生体認証かPINで本人確認を通せば登録が終わる。

作ったパスキーはサインインそのものに使われる場合もあれば、多要素認証の本人確認に使われる場合もある。 多要素認証とは、パスワードに加えて別の証拠を求める二重ロックのことである。

追加のパスキーもあとから登録でき、同じパスキーの画面から削除もできる。

鍵を何本も持てる設計はちゃんと親切だと思う。

iPhoneの持ち主なら見慣れた動きだろう。 AppleはパスキーをiCloud Keychainに暗号化して保存し、同じアカウントの端末同士で使えるようにしている。 Googleもアカウントのセキュリティ設定からパスキーを作らせ、フィッシング対策として勧めている。

指紋や顔を鍵にする発想は、もう大手のどこでも共通の作法になっている。 ChatGPTはその輪に後から加わった格好になる。

欄が出ない人がいる

本文図解2

厄介なのは、パスキーの欄そのものが出てこないアカウントがあることだ。 表示はアカウントの作り方、メールアドレスの有無、サインインの方法で変わる。

運営元の案内にあるのは「パスキーを追加する選択肢がまだ見えない場合がある」という趣旨の一文だけ。 誰の画面にいつ出るのか、対象の一覧は公開されていない。

ボタンが無いのに手順だけ配るのは、半分白紙の地図を渡して道案内を名乗るようなものだ。

表示の条件を表一枚で開示すれば、利用者は自分のアカウントを数秒で切り分けられる。 その表を出さずに「見えない場合がある」程度の説明で済ませる態度は、説明責任としてかなり物足りない。

会社や学校で一括管理されるSSOのアカウントは事情が違う。 SSOとは、組織のIDひとつで複数のサービスへまとめて入る仕組みのこと。 組織のサインイン経路がそのまま続き、パスキーは多要素認証として働く場合がある。

国による制限を心配する必要はあまりない。 日本はChatGPTのウェブとモバイルの対応国に入っている。

ただし日本語の画面で全員に同じ欄が出るのか、どのプランが対象なのかは一律の答えが出ていない。

欄が見えないのは、あなたの操作ミスとは限らない。

半年後もこの曖昧な一文のままなら、同じ質問がサポート窓口に積み上がり続けるだろう。

端末を失った日の戻り道

本文図解3

鍵を作ったときの安心感は、端末1台に閉じた鍵だと紛失の日にそのまま不安へ変わる。

同期されたパスキーなら事情が変わる。 iCloud Keychainのように同じアカウントの複数端末で共有される保存先なら、別の端末からでも使える場合がある。

パスキーで入れない時は、サインイン画面の「Try another method」から別の認証方法を選べる。 鍵が回らないドアの横に、通用口がひとつ残っている作りになっている。

ところが通用口の先に何も登録していなければ、扉は開かない。

パスキーひとつで十分という見方もあるだろう。 1本の鍵で暮らせるのは、その鍵を絶対になくさない人だけである。 スマホを一度も落としたことのない人がどれだけいる?

運営元自身の振る舞いが答えになっている。 2026年4月30日に発表された「高度なアカウント セキュリティ」は、パスワードでのログインを止めてパスキーか物理キーで守る強化版の機能。 安全なサインイン方法を少なくとも2つ求め、そのうち1つは同期パスキーやセキュリティキーのように端末をまたげる方法でなければならない。

いちばん固い守りを設計した側が、入口を2つ以上に増やせと言っている。

この強化版は狙われやすい人向けの重装備で、普段使いのパスキー登録とは別の機能として用意されている。 それでも「鍵は1本では足りない」という考え方だけは、普段使いの人にもそのまま当てはまると思う。

パスキーの欄が出たら登録し、その鍵がスマホ1台に閉じていないかを確かめて、別のパスキーか別の認証方法をもう一つ足しておく。 二本目の入口ができた時点で、落としたスマホが会話履歴の金庫に変わる心配はぐっと小さくなる。

出典